物価高騰が止まらない今、多くの飲食チェーンが「適切な価格転嫁」の名の下に値上げに踏み切っています。
しかし、その潮流に真っ向から立ち向かい、むしろ勢いを増しているのがサイゼリヤです。
株価は上場来高値を更新、業績も絶好調。なぜ彼らは「値上げをしない」という茨の道を選びながら、利益を積み上げることができるのでしょうか?
そこには、緻密に計算された「経済合理性」がありました。
1.サイゼリヤで起きる「実質賃金の逆転」
現在、日本の実質賃金はマイナスが続いています。
給料は上がっても、それ以上に物価が上がっているため、私たちの生活は苦しくなる一方です。
しかし、「価格を据え置いているサイゼリヤ」の店内に一歩入れば、そのルールは逆転します。
世の中: 物価上昇 > 賃金上昇 = 買えるものが減る
サイゼリヤ内: 物価維持 < 賃金上昇 = 買えるものが増える!
パート・アルバイトの時給が上がるほど、サイゼリヤのメニューは「相対的に安く」なります。
他社が値上げをすればするほど、サイゼリヤは広告費を1円もかけずに「圧倒的なお値打ち感」を手に入れているのです。
2.「安すぎて注文が増える」という魔法(ミックス効果)
面白いことに、サイゼリヤは値上げをしていないのに、客単価はむしろ上がっています。
これを説明するのが、行動経済学の「心の会計(心理的会計)」という概念です。
例えば、ランチ予算を1000円と考えている人がいるとします。
他店: セットメニューで1000円。これで注文終了。
サイゼリヤ: パスタが400円。
「あと600円分も予算が余っている!」という心理的余裕が生まれます。
この余った予算で、コーンスープやイタリアンプリン、ドリンクバーを追加注文してしまう。
コンビニスイーツよりも安くて高品質なサイドメニューが店内に揃っているため、消費が店内で完結するのです。
顧客は「たくさん頼めて幸せ」と感じ、店側は「客単価が上がって万々歳」という、理想的なサイクルが回っています。
3.経営を支える「海外事業」という最強のバックボーン
もちろん、この戦略は単なる「痩せ我慢」ではありません。
サイゼリヤが国内でこれほど耐えられるのは、海外事業(特に中国市場など)の利益が国内を支える構造ができあがっているからです。
現在、全売上の約3分の1、利益面ではそれ以上の規模を海外が占めています。
円安のデメリット: 国内の原材料費が上がる。
円安のメリット: 海外で稼いだ外貨が、円に換算した時に膨れ上がる。
このバランスにより、国内での「我慢」を戦略的に継続できました。
そして今、客数と客単価が上昇し、損益分岐点(利益が出るかどうかの境界線)を大きく超え始めました。
ここからは、売上が伸びるほど利益が雪だるま式に増える「加速フェーズ」に突入します。
まとめ:デフレの王者は、インフレの覇者へ
かつて「デフレの象徴」と呼ばれたサイゼリヤは、今や「インフレ下で最も賢く立ち回る企業」へと進化しました。
顧客の財布事情に寄り添いながら、心理的トリックとグローバルな収益構造で利益を出す。
この「底力」こそが、サイゼリヤが異彩を放ち続ける最大の理由だと言えるでしょう。

